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2023.01.16
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ペルー、反政府デモは収拾の見通し立たず、非常事態宣言を1ヶ月延長
~観光業への悪影響は必至の上、供給不安が銅価格上振れを通じて世界経済に悪影響の可能性も~
西濵 徹
- 要旨
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- 南米ペルーでは先月、カスティジョ前大統領が弾劾されるとともに、反逆罪で拘束される一方、ボルアルテ副大統領が大統領に昇格した。ボルアルテ氏は大統領選ではカスティジョ氏とタッグを組んだが、その後は与党PLと関係が悪化するとともに、議会の多数派を占める右派と協調する形で大統領に昇格したため、カスティジョ氏の支持者が反発し、一部が暴徒化するなど事態収拾の見通しが立たない状況が続く。デモの長期化に伴い政府はGDP比1%強の悪影響が出るとの見方を示す一方、インフレが高止まりするなかで中銀は今月も18会合連続の利上げを決定し、一昨年後半以降の利上げ幅は累計750bpに達している。他方、政府は首都リマや南部を対象に非常事態宣言を1ヶ月延長しており、観光業などへの悪影響は必至の上、複数の銅鉱山が操業停止に追い込まれるなど、供給不安が世界経済に悪影響を与える可能性もある。
南米ペルーでは先月、共和国議会でペドロ・カスティジョ前大統領に対する弾劾決議が賛成多数で可決されるとともに、副大統領であったディア・ボルアルテ副大統領を大統領に昇格させる決定がなされた結果、同国初となる女性大統領が誕生した(注1)。カスティジョ氏は弾劾決議を前に、共和国議会の一時的な閉鎖、及び解散による臨時政府の樹立を試みたものの、軍、及び国家警察がこれに反発したことで求心力を失うとともに、憲法秩序を乱した反逆罪容疑により拘束される事態に発展した。なお、カスティジョ前政権は、中南米において広がりをみせる『ピンクの潮流』の流れを受ける形で2021年の大統領選を経て発足するも、政権発足直後から政権を支える与党PL(自由ペルー)内の派閥対立に加え、共和国議会は右派が多数派を占めるなかで政権との対立が激化するなど政策運営は難航した。さらに、カスティジョ前政権は1年半ほどの間に5人の首相が交代するなど、コロナ禍による経済の疲弊対して充分な政策対応が図られず、カスティジョ氏自身にも職権濫用や汚職などの疑惑が噴出して度々議会に弾劾決議が提出される動きもみられた。昨年4月には商品高に伴うインフレにより国民生活を巡る状況が厳しさを増すなか、反政府デモが激化するとともに一部が暴徒化するなど治安情勢が悪化したため、政府は外出禁止令の発令に追い込まれた(注2)。他方、大統領に昇格したボルアルテ氏を巡っては、カスティジョ氏とタッグを組む形で与党PLから出馬するも、副大統領就任後にPLと対立するとともに、カスティジョ氏に対する弾劾に際しては議会の多数派を占める右派と協調して大統領に昇格する道筋を開いた経緯がある。こうしたことから、カスティジョ氏に対する弾劾決定以降、カスティジョ氏やPLの支持者を中心に全土でカスティジョ氏の復権とボルアルテ氏の辞任、議会の閉鎖、及び早期の総選挙実施、新憲法制定などを求める抗議運動が活発化しており、一部が暴徒化する事態となり、政権は全土に非常事態宣言を発令する事態に追い込まれた(注3)。その後、議会は大統領選の2年前倒し実施に関する憲法改正法案を可決するなど一定の譲歩をみせる一方、政府はデモの鎮圧を目的に武力行使も辞さない姿勢をみせたことで多数の死傷者が出た結果、ボルアルテ政権は発足から1ヶ月足らずにも拘らずすでに再組閣に追い込まれるなど求心力の低下が必至となっている。さらに、ボルアルテ氏は再組閣に際して首相に防衛相であったオタロラ氏を指名したが、PLなど左派はデモ隊鎮圧を巡って死傷者が発生する一因となった同氏の指名に反発するとともに、年明け以降も反政府デモの動きは活発化する展開が続くなど事態収拾の見通しは立っていない。また、反政府デモが長期化していることを受けて、産業の柱の一つである観光業は深刻な悪影響に直面しており、同国政府は一連の混乱による経済的な悪影響が約100億ソル(GDP比1.1%)に及ぶとの試算を発表するなど、政治のみならず、経済への打撃も必至の状況となっている(注4)。このように経済を巡る状況に不透明感が強まる一方、足下のインフレ率は昨年6月をピークに頭打ちする動きをみせるも、依然として中銀の定めるインフレ目標を大きく上回る推移が続くなど鎮静化の見通しが立たない状況にある。中銀は一昨年8月以降、物価抑制を目的に断続的な利上げを実施しているものの、インフレが高止まりしていることを理由に12日の定例会合において18会合連続の利上げ実施を決定して政策金利を7.75%としており、今次の利上げ局面における利上げ幅は累計750bpに達している。中銀は先行きのインフレ動向について、鈍化が進むことで年末には目標域に戻るとの見方を示しているものの、足下においても食料品やエネルギーなど生活必需品を中心にインフレが続いている上、反政府デモの長期化による物流の悪化もインフレ要因となり得ることを勘案すれば、些か楽観に過ぎている可能性も考えられる。こうしたなか、ボルアルテ政権は14日に首都リマと隣接する港湾都市のカヤオのほか、南部のプノ県とクスコ県を対象に非常事態宣言を1ヶ月延長しており、プノ県にはチチカカ湖、クスコ県にはマチュピチュなどインカ帝国に関連した世界遺産が集中していることを勘案すれば、経済への一段の悪影響は必至と見込まれる。足下の通貨ソル相場を巡っては、米ドル高の一服に加え、同国が世界2位の生産量を誇る銅の国際価格の堅調さを理由に底堅い動きをみせているものの、反政府デモの余波で複数の銅鉱山が襲撃被害を受けて稼働停止を余儀なくされる動きもみられ、今後は供給不安が中国のゼロコロナ政策終了による景気底入れ期待と重なる形で市況の一段の上振れを招くなど、世界経済のリスク要因となる可能性もある。


注1 2022年12月8日付レポート「ペルー・カスティジョ大統領の弾劾決定、ボルアルテ氏が同国初の女性大統領に」
注2 2022年4月6日付レポート「ペルー、政局混乱の裏で反政府デモ激化、政府は外出禁止令を発令」
注3 2022年12月15日付レポート「ペルー、政治混乱は一段と激化して収束が見通せない展開が続く」
注4 1月10日付レポート「ペルー、前大統領弾劾に端を発するデモ長期化で経済の柱、観光業に打撃」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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