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フィリピン中銀、利上げに「後手」との認識を示しつつ緊急利上げ決定

~タカ派で政府に物申すレモロナ総裁の面目躍如、期先を制する対応を強化する可能性は高まる~

西濵 徹

要旨
  • 26日、フィリピン中銀は緊急会合を開催して主要政策金利を25bp引き上げる決定を行った。会合後に公表した声明文では、今回の決定について供給要因による物価上昇に直面するなか、二次的効果に伴うインフレの上振れ抑制を目指したとしている。また、同行のレモロナ総裁は来月に予定される定例会合での追加利上げに含みを持たせるとともに、これまでの政策運営について「後手に回っている」との認識を示した。8月に中銀総裁に就任したレモロナ氏はこれまで、タカ派姿勢に加え、政府に物申す対応をみせてきた。足下では生活必需品を中心とする物価上昇に加え、米ドル高に伴うペソ安を通じた輸入インフレの懸念もくすぶるなか、中銀は物価と為替の安定を目的に一段の引き締めを迫られる可能性も高まるものと予想される。

26日、フィリピン中央銀行は緊急の金融政策委員会を開催して、主要政策金利である翌日物リバースレポ金利を翌27日付で25bp引き上げて6.50%とする決定を行った。会合後に公表した声明文では、今回の決定について「供給要因に基づくインフレ圧力が二次的効果を誘発してインフレ期待を一段と混乱させることを防ぐことが狙い」との考えを示している。その上で、インフレ見通しについて「最新の見通しでは上振れリスクが顕在化し、政策期間全体でインフレが上昇して目標レンジを上回る」としつつ、「二次的効果に伴いインフレ期待も急上昇するなどリスクが浮き彫りになっている」との認識を示している。また、インフレ見通しに対するリスクバランスについて「公共料金の引き上げや最低賃金上昇などにより依然として上方に大きく傾いている」としつつ、「想定を下回る世界経済の動向、エルニーニョ現象の影響緩和に向けた政府の施策はインフレ圧力を和らげる可能性がある」との見方を示している。そして、国内経済について「ペントアップ・ディマンド(繰り越し需要)の出尽くしが示唆されているが、中期的な景気見通しは維持されている」との見方を示した上で、「利上げによる影響を注視しつつ、景気下支えに向けた財政政策や物価抑制に向けた政策対応を引き続き支援する」として、「政府が実施した行政命令10号(関税定率法に基づく輸入関税の引き上げ措置)の発効延長の決定を支持する」との考えを示している。なお、先行きについては「インフレ期待がより安定し、インフレ率の持続的な低下傾向が定着するまで引き締め政策をより長期に亘って維持する必要がある」との認識を示しつつ、「対応はデータ次第ながら、インフレ率を目標域に戻すべく徹底した対応を採る準備をする」との考えを示した。緊急会合後に記者会見に臨んだ同行のレモロナ総裁は、今回の決定について「インフレ抑制に向けた政策対応に緊急性が生じていた」との認識を示した上で、「インフレを巡る二次的効果の抑制を図るためのもの」との考えを改めて強調した。そして、先行きの政策運営について「11月16日の定例会合は予定通り開催する」とした上で「それまでのデータを参照しつつ、状況が想定より悪化した場合は追加利上げを検討することになる」との考えを明らかにした。また、インフレ動向について「年末までに目標域に回帰することはなく、目標域に回帰するのは来年後半になる」との見通しを示した上で、「中銀は利上げ実施で後手に回っていると感じている」と述べるなど、これまでの政策対応の遅れを認識しているとの考えを示した。他方、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率▲3.60%と丸3年ぶりのマイナス成長となるなど、予想外に景気が躓いていることが確認されたものの(注1)、「金融引き締めが成長見通しに影響を及ぼしていない」とした上で「中銀は物価安定の責務に則る形でインフレ目標の実現に向けて必要な政策対応を講じる用意がある」と述べるなど、物価安定を重視する考えを強調した。レモロナ氏は今年7月に前任のメダラ氏の任期満了に伴い政策委員から総裁に昇任し(注2)、総裁就任後の定例会合では8月、9月と2会合連続で政策金利を据え置く決定を行っている。ただし、いずれも再利上げに含みを持たせる『タカ派』的な姿勢をみせるとともに、9月の定例会合では物価抑制に向けた政府による政策運営に『物申す』などインフレ抑制に向けた政策を総動員する考えをみせた(注3)。年明け以降のインフレ率は頭打ちの動きを強めてきたものの、足下では主要産油国による自主減産の延長や中東情勢を巡る不透明感の高まりに加え、異常気象の頻発に伴いアジアを中心に農産物の作柄が悪化するなかで輸出禁止や制限に動く国が広がりをみせており、商品市況が底入れするなど食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレ再燃の兆しが出ている。さらに、こうした動きを受けて国際金融市場では米ドル高が再燃しており、同国においては通貨ペソ相場が調整して輸入インフレ圧力が強まることによりインフレ圧力が増幅される懸念も高まっている。足下の外貨準備高はIMF(国際通貨基金)が国際金融市場の動揺への耐性の有無を示すARA(適正水準評価)に照らして、「適正水準(100~150%)」を上回る水準を有すると試算されるなど充分と判断出来るものの、仮に一段と米ドル高圧力が強まる事態となれば為替介入に伴い体力を毀損する状況も予想される。その意味では、物価と為替の安定を目的に中銀がさらなる利上げを迫られる可能性は高まっていると見込まれる。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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