- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- メキシコ景気は一段の頭打ち確認、メキシコペソ相場の行方は
- World Trends
-
2024.05.28
新興国経済
新興国金融政策
メキシコ経済
為替
米国大統領選
メキシコ景気は一段の頭打ち確認、メキシコペソ相場の行方は
~中銀の動きに影響の一方、当面のペソ相場は景気と物価、米国の政局の行方に揺さぶられる展開~
西濵 徹
- 要旨
-
- メキシコ経済を巡っては、物価高と金利高の共存が長期化して景気に下押し圧力が掛かりやすい状況にある。インフレが頭打ちに転じるも、中銀は引き締め姿勢を維持して実質金利のプラス幅が拡大したため、投資妙味の高さがペソ相場を押し上げた。中銀は3月にコロナ禍後初の利下げに動くも、その後の米ドル一強の動きがペソ相場を揺さぶり、今月は再び様子見姿勢に転じるなど慎重姿勢を崩せない状況にある。
- インフレは頭打ちしてきたが、足下では生活必需品を中心に物価上昇圧力が強まり、インフレ率は中銀目標を上回る推移が続く。物価高と金利高が共存するなか、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+1.12%とプラス成長を維持するも頭打ちの様相を強めている。サービス業は活況を呈する一方、異常気象による農業の低迷、外需鈍化が鉱業や製造業の生産の足かせとなるなど幅広く頭打ちする様子が窺える。
- 足下のマインド統計の動きをみると、製造業の企業マインドは頭打ちする一方、家計部門は堅調に推移している。ただ、先行きは米国経済の行方やペソ高が足かせとなる懸念があり、中銀は金融緩和を迫られる可能性がある。大統領選や議会選は与党が優勢の一方、米国大統領選の行方は同国経済を揺さぶる可能性はある。当面のペソ相場は景気や物価のほか、米国の政局に揺さぶられることに要注意と言える。
メキシコ経済を巡っては、ここ数年の商品高や米ドル高、コロナ禍一巡による経済活動の正常化を追い風とするインフレに加え、物価と為替の安定を目的とする中銀による断続利上げを受けた金利高も重なり、景気の足かせとなる懸念が高まっている。なお、インフレは一時23年弱ぶりの高水準に達するも、商品高の一巡を受けて頭打ちに転じたほか、国際金融市場では度々米ドル高が再燃する動きが確認されるも実質金利のプラス幅拡大という投資妙味の大きさを追い風とする資金流入を反映して通貨ペソ相場は強含んで輸入インフレ圧力も後退し、インフレは中銀目標(3±1%)に向けて鈍化してきた。中南米諸国においては、インフレを理由にコロナ禍後の比較的早い段階で利上げに舵を切るとともにその後も断続利上げを余儀なくされたため、商品高や米ドル高の一巡によるインフレ鈍化を受けて一転して利下げに動く流れが広がりをみせた。一方、メキシコではインフレが頭打ちするもインフレ目標を上回る推移が続くなかで中銀は高金利政策を維持する姿勢をみせたため、そうした姿勢も実質金利のプラス幅拡大を促すとともにペソ相場を押し上げるなどインフレ鈍化を促すことが期待された。しかし、高金利が長期化するととともに、内・外需双方で同国経済への影響力が極めて大きい米国経済の勢いに陰りが出ており、景気の足かせとなる材料山積を受けて頭打ちの様相を強めたため、中銀は3月にコロナ禍後初の利下げに動くなど景気に配慮せざるを得ない状況にある(注1)。さらに、先月の国際金融市場は『米ドル一強』の様相をみせるなかで実質金利のプラス幅の大きさを追い風に強含んできたペソ相場にも調整圧力が強まるなど(注2)、ペソ相場を取り巻く環境が変化する懸念も高まった。その後の国際金融市場は落ち着きを取り戻すとともに、ペソ相場は再び底入れの動きをみせているものの、中銀は今月の定例会合で政策金利を2会合ぶりに据え置く決定を行うなど慎重姿勢を崩すことができない状況に直面していると捉えられる。

他方、昨年後半以降の中東情勢を巡る不透明感の高まりを受けた国際原油価格の底入れの動きは、交易条件の改善を通じて産油国である同国経済を押し上げることが期待されるものの、近年は産油量が頭打ちの様相を強めるとともに、足下ではエネルギー価格が上昇の動きを強めている。さらに、ここ数年の中南米諸国では異常気象が頻発している上、足下ではエルニーニョ現象を理由に高気圧が熱を閉じ込めるヒートドーム現象を受けた猛暑に見舞われており、農作物の生育不良による供給懸念が食料インフレを招く動きもみられるなど、生活必需品を中心にインフレ圧力が強まっている。さらに、一昨年末以降のインフレは頭打ちの動きを強めてきたものの、足下ではその反動が出やすくなるなかで底打ちに転じている上、インフレ率、コアインフレ率ともに依然として中銀目標を上回る推移が続いている。よって、生活必需品を中心とする物価高と金利高の共存が経済の足かせとなる懸念は引き続きくすぶるなか、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+1.12%とプラス成長を維持するとともに前期(同+0.03%)からわずかに伸びは加速しているものの、コロナ禍からの景気回復の勢いに陰りが出ている。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+1.9%と前期(同+2.3%)から鈍化して丸3年ぶりの伸びに留まるなど、足下の景気は失速気味の様相を強めていると捉えられる。分野別の生産動向をみると、堅調な移民送金の流入や雇用環境を追い風に家計消費が底堅く推移していることを反映してサービス業など第3次産業の生産は比較的活発に推移しているほか、漁業や畜産業、林業などの堅調さが第1次産業の生産を押し上げる一方、異常気象が足かせとなる形で農業の生産は下振れしているほか、外需が勢いを失うなかで製造業や鉱業の生産も鈍化しており、幅広い分野で景気が頭打ちしている様子がうかがえる。


足下の景気は頭打ちの様相を一段と強めていることが確認されているものの、マインド統計の動きをみると製造業を中心とする企業部門は国内・外、とりわけ米国経済を巡る不透明感を警戒して一進一退の動きをみせるも勢いに陰りが出る動きをみせる。一方、家計部門については上述のように生活必需品を中心とするインフレに直面しているにも拘らず堅調に推移するなど対照的な動きをみせている。こうした背景には、GDPの約4%に相当する移民送金が米国の雇用環境の堅調さを追い風に依然として活発に流入していることが影響しているとみられる一方、足下では米国の雇用改善の動きに変調の兆しが出ているほか、国際金融市場におけるペソ高を受けてペソ建で換算した移民送金の目減りを招くなど、家計部門のマインドの足かせとなることも考えられる。よって、中銀は今月の定例会合で政策金利を据え置くなど再び様子見姿勢に転じたものの、先行きは金融緩和を迫られるとともにペソ相場を取り巻く環境が変化する可能性もある。なお、来月2日に実施予定の大統領選を巡っては、現地報道などでは現職のロペス=オブラドール大統領の腹心であるシェインバウム氏が、同時に実施される上下院総選挙も与党MORENA(国民再生運動)が優位に選挙戦を展開している模様であり、次期政権下でも現政権から大きく方針が転換される可能性は低いと見込まれる。他方、今年11月に予定される隣国の米国大統領選の行方は、近年のデリスキング(リスク低減)を目的とするニアショアリングやフレンドショアリングの観点からサプライチェーンの受け皿として同国に対する注目が集まる状況に少なからず影響を与えるとみられ、米国の次期政権の『出方』が注目される。当面のペソ相場を巡っては、頭打ちする実体経済、生活必需品を中心とするインフレ懸念、米国の政局を巡る動きなど不確実性の高い要因に揺さぶられる可能性に留意する必要がある。

注1 3月22日付レポート「メキシコ中銀、景気が頭打ちの様相を強めるなかでコロナ禍後初の利下げ」
注2 4月19日付レポート「「最強通貨」メキシコペソでも「米ドル一強」の流れには勝てないか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
インドネシア中銀は「金融市場の警戒」にようやく重い腰を上げる ~ルピア相場の安定に向けて利上げ実施も、政府との政策運営を巡る矛盾払しょくは進むか~
アジア経済
西濵 徹
-
BRICS外相会議、中東情勢を巡る「溝」で共同声明の採択見送り ~イランとUAEの対立が先鋭化、「全会一致」を前提とする意思決定の難しさが露に~
新興国経済
西濵 徹
-
タイ、1-3月GDPは前年比+2.8%と堅調も、内外に不安要因山積 ~中東情勢悪化でデフレ状況は一変、政府見通し実現のハードルは高まっている~
アジア経済
西濵 徹
-
期待外れに終わった米中首脳会談、「時間軸」が両者の認識の違いに ~中国景気は引き続き供給主導、政策誘導による株価下支えの行方にも不透明感~
アジア経済
西濵 徹
-
インド・4月インフレ率は前年比+3.48%と小幅加速(Asia Weekly) ~先行きはガソリン・軽油価格の変更、食料供給懸念、ルピー安によるインフレ加速に警戒~
アジア経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
ペルー大統領選、決選投票を前に高まる経済と政治を巡るリスク ~候補者訴追問題やインフレ圧力の強まりを受け、市場環境は不安定な展開が続くか~
新興国経済
西濵 徹
-
ブラジル・ルラ政権、燃料補助金による価格抑制に舵 ~大統領選を強く意識した政策運営、「産油国」など特殊事情はあるが、持続可能ではない~
新興国経済
西濵 徹
-
南ア下院、ラマポーザ大統領への弾劾手続き開始へ ~否決の公算も統一地方選には逆風、ランド相場は外部環境が左右する展開続く~
新興国経済
西濵 徹
-
メキシコ中銀、利下げ局面の終了を宣言、ペソ相場はどうなる? ~中銀のタカ派傾斜は下支えにつながる一方、景気の行方には不透明感~
新興国経済
西濵 徹
-
コロンビアで左派政権継続の可能性高まる、米国との関係の行方は ~選挙の行方は政治や経済のみならず、日本のエネルギー安全保障にも影響~
新興国経済
西濵 徹

