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2024.10.09
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インド準備銀、金利据え置きの一方で政策スタンスを「中立」にシフト
~将来的な利下げに道筋も、原油相場や米ドル相場など外部環境を勘案すれば難しい局面が続く~
西濵 徹
- 要旨
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- インド準備銀は9日の定例会合で政策金利(レポ金利)を10会合連続で6.50%に据え置く一方、政策スタンスを「中立」に変更した。ここ数年のインドではインフレが続くとともに、今年の総選挙で与党BJPが大幅に議席を減らす一因になったとされる。足下のインフレは鈍化する一方、食料インフレの懸念がくすぶるなど国民生活への影響はくすぶる。先月から今月にかけて実施された地方選の行方が注目されたが、選挙ではBJPは善戦するなど、足下のインフレ鈍化の動きは政権与党の追い風になっていると捉えられる。
- 足下の景気は頭打ちが意識される動きがみられるなか、中銀は政策スタンスを全会一致で変更するなど、今回の決定を通じて将来的な利下げに道を開いたと捉えられる。なお、先行きの景気は内・外需双方で堅調な動きが続くほか、物価動向もディスインフレ基調が続くとの見通しを示した。中銀はインフレ抑制に自信をみせるが、足下では中東情勢を理由に原油価格は急上昇しているほか、ルピー相場も米ドル安の動きに一服感が出るなど環境は変化しており、物価を巡るリスク要因は山積している。仮に利下げに動けばルピー安の動きが加速する可能性もくすぶるなか、中銀にとっては難しい判断を迫られる局面が続くであろう。
インド準備銀行(中銀)は、9日に開催した定例の金融政策委員会において政策金利(レポ金利)を10会合連続で6.50%に据え置く決定を行った。他方、政策スタンスについては「中立」に変更するなど、従来姿勢(金融緩和の解除)からの転換が図られている。インドではここ数年、コロナ禍一巡による経済活動の正常化と商品高、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ルピー安による輸入インフレも重なり、インフレが昂進する展開が続いてきた。よって、中銀は物価と為替の安定を目的に累計250bpの利上げに動くとともに、ルピー相場の安定に向けて断続的な為替介入を実施したため、インフレは一時的に頭打ちに転じる動きがみられた。しかし、昨年は雨季(モンスーン)の雨量が例年を大きく下回るなど農作物の不作を理由とする食料インフレに見舞われ、インフレが再加速して中銀目標を上回る水準となり、中銀は引き締め姿勢を維持せざるを得ない状況が続いてきた。足下のインフレ率は前年に加速した反動で頭打ちの動きを強めており、中銀が再三に亘って目標の中央値(4%)に抑える方針を示してきたなかでこれを下回る水準となるなど、一見すると落ち着きを取り戻している。ただし、今年は暑季に熱波が大量発生する異常気象を受けて食料インフレの動きが再燃しており、表面的なインフレ率は鈍化しているものの、家計部門にとっては生活必需品を中心とするインフレに直面する難しい状況が続いている。インフレを巡っては、今年実施された連邦議会下院(ローク・サバー)総選挙において、モディ政権を支える最大与党BJP(インド人民党)が議席数を大幅に減らす一因になったとみられる(注1)。BJPの友党を併せた与党連合のNDA(国民民主連盟)全体では半数を上回る議席数を確保しており、モディ政権は無事3期目入りを果たしたものの、モディ政権下で初めてBJPは単独過半数を失ったことでNDA内における力関係に変化が生じており、政策運営に少なからず影響を与える動きもみられる。こうしたなか、今月5日に実施された北部ハリヤーナ―州議会選挙の行方に注目が集まった。同州はBJPの大票田であるいわゆる『ヒンディー・ベルト』に位置しており、同州の10議席のうち改選前はすべての議席をBJPが占めていたものの、今回の総選挙で5議席を失うなど惨敗しており、その行方はモディ政権の舵取りに少なからず影響を与えることが見込まれた。改選前はBJPが友党と併せて半数を上回る議席を確保して州内与党を形成していたものの、結果はBJPが議席数を増やすとともに単独で半数を上回る勝利を収めた。さらに、先月末から今月初めにかけて実施された北部ジャンムー・カシミール連邦直轄領議会選においても、ジャンムー地方を中心にBJPは議席を確保するとともに、全体としての得票率も総選挙時点を上回るなど善戦を収めている。よって、足下のインフレ鈍化の動きはモディ政権、及び与党にとって追い風になっていることは間違いないと捉えられる。


こうしたことから、中銀は政策金利を据え置く一方、政策スタンスを引き締めスタンスから中立にシフトさせることで、4-6月の実質GDP成長率が前年同期比+6.7%と5四半期ぶりの伸びに留まるなど一見すると頭打ちが意識される動きがみられるなか(注2)、景気に配慮するとともに将来的な利下げに道筋を開いたものと捉えられる。会合後に公表した声明文では、世界経済について「堅牢な動きが続いており、地政学リスクを巡る下振れ懸念はあるものの、年内は安定的なモメンタムを維持すると見込まれる」との見方を示している。一方、同国経済については「雨季の雨量確保を追い風に農林漁業関連の堅調な生産が見込まれるほか、内・外需双方で良好な動きが期待される」として、「今年度の経済成長率は+7.2%(7-9月+7.0%、10-12月+7.4%、1-3月+7.4%)、来年度の4-6月は+7.3%となり、リスクはバランスしている」との見通しを示している。また、物価動向についても「先行きは異常気象のリスクはくすぶるものの、年末にかけて食料インフレ圧力の解消が見込まれる」とした上で、「企業部門が直面するインフレ圧力の後退も期待される」として、「今年度のインフレ率は+4.5%(7-9月+4.1%、10-12月+4.8%、1-3月+4.2%)、来年度の4-6月は+4.3%になり、リスクはバランスしている」との見通しを示している。こうした見通しを元に、先行きの物価動向について「年後半にかけてディスインフレに向けた道筋に対する自信を有している」とした上で、「物価安定と景気見通しのバランスが取れていることを受けて、金融政策のスタンスを『中立』に変更することにより、景気を下支えしつつ、長期的に物価を目標域に収束させることに焦点を充てることに注力する」との考えを示している。そして、政策スタンスの変更について「政策運営の柔軟性を得る一方、リスク要因に留意しつつディスインフレの進捗状況を注視することができる」として、将来的な利下げに道を開く姿勢を示したと捉えられる。今回の決定については、政策スタンスについては全会一致である一方、政策金利については「5(据え置き)対1(25bpの利下げ)」と票割れしてクマール委員(産業開発研究所(ISID)所長、兼最高経営責任者)が反対票を投じたことを明らかにしている。なお、中銀はインフレ抑制に自信を持っている様子がうかがえるが、足下では中東情勢を巡る不透明感の高まりを理由に原油価格は底入れしており、今年のインドの原油輸入は中東諸国からの輸入とロシアからの輸入がほぼ同量となるなど、割安な原油輸入を大幅に拡大させているものの、物価への悪影響が懸念される状況は変わらない。さらに、一昨年末以降は中銀による断続的な為替介入を通じてルピー相場の安定を図る一方、このところは米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げを受けた米ドル安の動きを反映して底打ちする動きがみられたものの、足下では米ドル安の動きが一変するなかでルピー相場は最安値圏が再び意識されたことを受けて中銀は市中銀行にルピー売りを抑制するよう要請する口先介入を行うなど難しい対応を迫られている。仮に利下げに舵を切ればルピー売り圧力が増幅されるリスクもくすぶるなか、中銀にとっては難しい対応を迫られる局面が続くであろう。

注1 6月5日付レポート「インド総選挙、与党連合過半維持もBJP議席減、モディ政権とインド経済は」
注2 9月2日付レポート「インド、4-6月GDPは前年比+6.7%に鈍化も過度な悲観は不要」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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