インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ペルー・ボルアルテ大統領、「世界で最も不人気なリーダー」となる

~通貨ソル相場は動意の乏しい展開も、今後も政局の混乱が常態化することは避けられないか~

西濵 徹

要旨
  • 南米ペルーではボルアルテ大統領を取り巻く状況が一段と厳しさを増している。昨年は反政府デモの活発化に加え、物価高と金利高の共存も重なりマイナス成長となるなど景気に急ブレーキが掛かる事態に直面した。他方、インフレが頭打ちに転じるなかで中銀は昨年9月以降に断続利下げに動いており、年明け以降の景気は底入れが確認されている。ただし、足下の景気は外需や公的需要への依存を強める一方、生活必需品を中心にインフレが再燃する動きもみられる。さらに、近年の同国は中国との関係深化を図るなか、米国のトランプ次期政権との関係にも不透明感がくすぶる。こうしたなか、ボルアルテ大統領は不正蓄財に加え、足下では職務放棄で捜査を受けるなど疑惑が噴出しており、最新の世論調査では政権の不支持率が95%と最悪を更新している。政局を巡る混乱にも拘らず、主要鉱物価格の高止まりが通貨ソル相場を支えるなど動意の乏しい展開が続くが、今後も政局の混乱が常態化する可能性に要注意と捉えられる。

南米ペルーではこのところ、ボルアルテ大統領を取り巻く状況が厳しさを増すとともに、政権が大きく揺れる展開が続いている。ボルアルテ氏を巡っては、一昨年末にカスティジョ前大統領に対する弾劾成立を受けて副大統領であった同氏が大統領に昇格し、同国初の女性大統領となった(注1)。しかし、その後はカスティジョ氏に対する弾劾決定に加え、ボルアルテ氏の大統領昇格に対してカスティジョ氏の支持者を中心に反発が強まり、一部が暴徒化して全土で反政府デモが活発化し、主要産業である観光業や鉱業に悪影響が出る事態に発展した。反政府デモは数ヶ月に及ぶとともに、幅広い経済活動に悪影響が出たことに加え、コロナ禍後のインフレや物価と為替の安定を目的に中銀は累計750bpもの利上げに動いたことも重なり、昨年の経済成長率は▲0.4%とマイナス成長となるなど景気に急ブレーキが掛かる事態に直面した。なお、昨年初めにかけてインフレは高止まりする展開が続いたものの、中銀による断続利上げに加え、商品高の動きが一巡したことも重なりその後は頭打ちの動きを強めたため、中銀は昨年9月にコロナ禍後初の利下げに動いた。さらに、その後もインフレは頭打ちの動きを強めたこともあり、中銀は小休止を挟みつつ断続的な利下げに動いており、先月までの累計の利下げ幅は275bpとなっている。よって、昨年はマイナス成長となるなど景気に急ブレーキが掛かるも、年明け以降は底入れする動きをみせているが、外需や公的需要への依存を強める一方、家計消費をはじめとする民間需要は力強さを欠くなど、足下の景気は自律的な回復力に乏しい状況が続いている。こうした状況に加え、今年半ば以降のインフレは中銀目標(2±1%)の範囲内で推移するなど落ち着いた動きをみせているものの、今年の中南米地域では『史上最悪』とも称されるクラスの干ばつ被害が直撃しており、ペルーにおいても電源構成の5割以上を水力発電が占めるなかで火力発電の再稼働を余儀なくされるとともに、エネルギー価格に上昇圧力が掛かる懸念が高まっている。さらに、大干ばつによる農作物の生産低迷を受けて食料インフレの懸念も高まるなど、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレ圧力が強まるなか、頭打ちの動きを強めたインフレは足下で底打ちに転じる動きをみせている。こうしたことから、中銀は12日の定例会合で政策金利を5%に据え置いており、慎重な政策運営を迫られる展開が続いている。また、先月の米大統領選でトランプ氏が勝利する一方、ペルーは近年中国との関係深化を図っており、先月には中国が主導する外交戦略(一帯一路)に関連して首都リマ近郊に巨大港(チャンカイ港)が開港されるなど中国の影響力が拡大するなか、米国との関係を巡る不透明要因となることが懸念される。こうしたなか、検察当局がボルアルテ大統領を不正蓄財の容疑で捜査するなど政治不信に繋がる動きがみられたが(注2)、新たな疑惑が持ち上がるなかで検察当局が今月初めに捜査に着手したことを明らかにするなど、政権を巡って大きく揺れ動いている。これは、ボルアルテ氏が大統領に昇格した後の昨年6~7月にかけて、鼻の美容整形手術を受けるために約10日間に亘って入院し、執務が不可能であったにも拘らず国会への連絡や代行者を置くなどの措置を講じず、職務を放棄したとの疑惑が取り沙汰されていることに伴う。ボルアルテ氏は手術が呼吸障害克服のためと説明した上で、職務継続に強い意欲をみせるとともに、国会において高まる自身への批判を『政局を目的としたもの』と一蹴する動きをみせている。しかし、一連の疑惑が取り沙汰された直後に実施された最新の世論調査では、ボルアルテ政権の不支持率は95%(支持率は3%)と政権発足から2年を経て最も厳しい数字となるなか、現地報道では『世界で最も不人気なリーダー』との称号が定着している模様である。なお、政治的には混乱をまったく脱する兆しがみられない状況にあるものの、通貨ソル相場は国際金融市場における米ドル高の再燃にも拘らず、足下では動意の乏しい推移をみせており、主要鉱物である銅や金などの国際価格が高止まりしていることが影響しているとみられる。とはいえ、不人気な政権の下で安定した運営を期待することは難しい上、次期総選挙の日程を巡っても不透明な状況が続くなかで政局の混乱が今後も常態化する可能性に留意する必要がある。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ