インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

フィリピン・ドゥテルテ前大統領逮捕、残り2ヶ月の中間選挙の行方は

~マルコス派有利の流れの一方、政局の動向は南シナ海を巡る外交関係に影響する可能性に注意~

西濵 徹

要旨
  • フィリピン大統領府は11日、ドゥテルテ前大統領の身柄を拘束したことを明らかにした。今回の逮捕容疑は、同氏は大統領在任中に実施した『麻薬戦争』による『超法規的殺人』を巡ってICCが人道に対する罪を理由に逮捕状を発出したことに拠る。なお、同国はドゥテルテ前政権の下でICCを脱退し、マルコス現政も脱退を維持しているが、身柄確保はICPOを通じて同国政府に逮捕要請がなされたことに対応したものである。
  • 両家を巡っては、2022年の大統領選で蜜月を演出してマルコス氏が大勝利を収めた経緯がある。しかし、政権発足前後から「次」を巡ってマルコス氏とサラ氏が主導権争いを演じたほか、政権運営を巡ってすきま風が吹く動きがみられた。その後も麻薬戦争を巡る動きが明らかになるとともに、サラ氏が脅迫容疑などを理由に弾劾裁判に掛けられるなど、両家の対立は抜き差しならない状況に発展してきた。
  • 2ヶ月後に中間選挙が迫るなかで両家は全面対決の様相をみせたが、一連の疑惑を理由にドゥテルテ派は苦戦を強いられている。なお、通貨ペソ相場は政局の動きと無関係の様相をみせており、今後も直接的な影響を受ける可能性は低いと見込まれる。他方、政局の行方は中国や米国との関係を通じて南シナ海を巡る情勢に影響を与える可能性が高く、引き続きその行方を注視する必要性は高いと見込まれる。

フィリピン大統領府は11日、大統領在任中に違法麻薬対策を名目に実施された『麻薬戦争』に際して行われた『超法規的殺人』に対する人道に対する罪を巡って国際刑事裁判所(ICC)がドゥテルテ前大統領に発出した逮捕状を執行し、同氏を逮捕したことを明らかにした。なお、フィリピン政府はドゥテルテ前政権下の2018年にICCが人道に対する罪を理由に予備調査を開始したことをきっかけに、翌19年にICCからの脱退を決定、マルコス現政権もICCからの脱退を維持する対応をみせてきた。この背景には、2022年の大統領選でマルコス氏が大勝利を収めた背景に、ドゥテルテ氏の長女であるサラ氏(現副大統領)とタッグを組むことで有利な選挙戦を展開したことも影響している。

ただし、政権発足前後からマルコス氏とサラ氏は『次』を目指す観点から主導権争いを演じる動きをみせたほか、マルコス氏が南シナ海問題や麻薬対策をはじめとする政権運営を巡って前政権からの大転換を図ったことをきっかけにマルコス氏とドゥテルテ氏の間に『すきま風』が吹いた。その後もドゥテルテ氏はマルコス氏を公然と批判するなど対立が鮮明になるとともに、昨年6月にはサラ氏が兼務していた教育相を突如辞任するなど対立が深刻化する事態に発展した。そして、5月に実施される中間選挙に向けてドゥテルテ家や側近を候補に擁立し、多数派を占めるマルコス派との『全面対決』に動く方針を明らかにするなど、抜き差しならない状況となっている。

他方、上述のようにマルコス政権はICCからの脱退を維持するとともに、逮捕状執行を留保する考えを示すなど決定的な形での関係決裂を回避する動きをみせてきた。しかし、昨年末にかけて議会が開催した公聴会において関係者から相次いでドゥテルテ氏や側近のボン・ゴー上院議員が一連の動きを主導したことが明らかにされたことを受けて(注1)、世論に変化が生じる動きがみられた。そして、その後にマルコス氏がICPO(国際刑事警察機構)からの要請があればドゥテルテ氏の身柄引き渡しを検討する方針を明らかにしたことを受け、サラ氏がマルコス氏やその周辺の『暗殺』を仄めかす発言を行うなど不穏な動きに発展した(注2)。さらに、サラ氏の発言のほか、公金濫用や収賄、権力濫用を理由に市民団体が同氏の弾劾を申し立てる動きに発展したほか(注3)、先月には議会下院(代議院)が弾劾訴追案を承認して弾劾裁判が行われることが決定しており(注4)、マルコス家とドゥテルテ家の対立は完全に『場外戦』に発展する事態となっていた。

なお、マルコス政権に対する『中間評価』となる中間選挙(5月12日に実施予定)まで残すところ2ヶ月を切るなど選挙戦は佳境を迎えている。当初はマルコス派とドゥテルテ派の接戦が予想されていたものの、上述のようにサラ氏に対する弾劾が開始されるとともに、ドゥテルテ氏を取り巻く環境も変化するなか、世論調査においてはドゥテルテ氏の地盤である同国南部のミンダナオ島においてもドゥテルテ派の苦戦が伝えられている。こうしたなか、ドゥテルテ氏とサラ氏は多数のフィリピン人労働者が居住する香港で開催された政治集会に参加するために同地を訪れるなど、在外投票の掘り起こしを図る動きをみせていた。他方、上述のようにマルコス氏がICPOの要請に応じる姿勢をみせるなか、香港はICCに加盟していない中国の統治下にあるため、その動向に注目が集まったものの、11日に香港から帰国の途に着いたところで身柄が拘束された格好である。さらに、ドゥテルテ氏の側近であるボン・ゴー上院議員も身柄拘束されている模様である。

上述したように、このところのフィリピンではマルコス家とドゥテルテ家の間で対立が先鋭化するなど、政局を巡る動きが混とんとする動きがみられたものの、国際金融市場においてはこうした動きがほとんど材料視されることがない展開が続いてきた。昨年末にかけては米トランプ政権の通商政策を巡る不透明感が米ドル高の動きを再燃させることでペソ安が進む動きがみられたものの、足下においてはそうした動きに一服感が出る兆しもみられる。先行きについても政局を巡る問題が材料視される可能性は低いと見込まれる。その一方、一連の流れは最大の輸出相手である中国との関係のほか、前バイデン政権との間で関係深化を図ってきた米国との関係にも影響を与えるなど、南シナ海を巡る情勢の行方を左右する可能性に留意する必要がある。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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