よりよい未来をつくる主権者になろう!(全3巻) よりよい未来をつくる主権者になろう!(全3巻)

シリーズZ世代考(1)「なぜZ世代の投票率は低いのか」

~政治不信を乗り越える主権者リテラシーの醸成を~

西野 偉彦

目次

1.衆院選で最も低い投票率はZ世代

Z世代は、定義が厳密に定められているわけではないが、おおむね「1990年代半ばから2000年代に生まれた世代」を指しており、2024年現在では10歳代半ば~20歳代にあたる(注1)。生まれながらインターネットが利用可能だったことから「デジタル・ネイティブ」といわれ、多様性を重んじる傾向などが指摘されている。これから10年先の日本を見据えたとき、20歳代~30歳代の大半を占めることになるZ世代の生活行動や考え方などについて、様々な角度から検討を加えることは重要である。

本稿では、解散総選挙のタイミングに合わせて「Z世代と選挙」を取り上げる。第50回衆議院議員総選挙(以下、衆院選)は2024年10月15日に公示され、同27日投開票となった。選挙のたびに指摘されるのが若者の低投票率である。総務省によると、約3年前の2021年10月に実施された第49回衆院選での投票率は、全体でも55.93%という戦後3番目に低い水準だったが、特に10歳代は43.23%、20歳代は36.50%となっており、Z世代の約6割が棄権している。年代別の投票率で最も高い水準となっている60歳代は71.38%で、20歳代との差は35ポイント近くに達しており、世代によって政治参加に大きな差が生じていることがわかる(図表1)。

図表1 第49回衆議院議員総選挙における年代別投票率(2021年)
図表1 第49回衆議院議員総選挙における年代別投票率(2021年)

2.社会課題への関心があっても政治参加に繋がらない理由

なぜ、Z世代の有権者の多くは投票を棄権するのだろうか。公益財団法人明るい選挙推進協会による2021年の調査を見ると、年代別の「政治関心度」では、全体では「非常に関心をもっている」と「多少は関心をもっている」を合わせると79.7%に達している。一方、Z世代の有権者では「非常に関心をもっている」と「多少は関心をもっている」を合わせても52.4%になっており、全体と比較すると25ポイント以上も低くなっている(注2)。また、棄権理由について、10~20歳代は「選挙にあまり関心がなかったから」(46.7%)、「仕事があったから」(37.8%)、「政党の政策や候補者の人物像など違いがよくわからなかったから」(20.0%)を挙げている(注3)。

上記調査の選択肢にはなかったが、投票を棄権する理由には、政治への信頼度の低さが要因になっている可能性もある。同協会が10~20歳代を対象に2021年に実施した調査によると、政治家 (国会議員・地方議員・首長)について、「全く信頼できない」と「あまり信頼できない」を合計した割合は7割近くに達している(図表2)。

図表2 日本の政治家(国会議員・地方議員・首長)についての印象
図表2 日本の政治家(国会議員・地方議員・首長)についての印象

この「政治不信」は、若い世代に限らない。公益財団法人NIRA総合研究開発機構がコロナ禍に行った調査によると、18歳~39歳、40歳~59歳、60歳以上のいずれにおいても、政府を「全く信頼しない」「あまり信頼しない」人が6割以上に達している(注4)。

日本人の場合、政府への不信感が高い一方で、自分自身が政治に参加するという意識も低い。2019年に公表された国際プロジェクト「第7回世界価値観調査」によると、日本においてデモやネットでの署名などの政治的行動に参加したことがある人の割合は、諸外国に比べて非常に低い傾向にある(注5)。

なぜ、日本では「政治に関心はあるが、信頼度は低く、政治参加は行わない」という考え方を有する人が多いのだろうか。再びZ世代に着目してみると、前出の「若い有権者の政治・選挙に関する意識調査(第4回)」によれば、「今の日本の政治を実際に動かしているのは誰だと思うか」という問いに対して、最多が「国会議員」の 26%、続いて「官僚」の 23%の順となり、合わせると約半数を占めている。これに対して「国民一人一人」は9%と、1割にも満たない(図表3)。ちなみに、この「政治は国会議員や官僚が動かしており、国民が動かしていない」と考える若い世代の傾向はZ世代に限ったものではなく、2009年に実施された同調査でも、ほぼ同水準だった(注6)。

図表3 今の日本の政治を動かしている主体の認識
図表3 今の日本の政治を動かしている主体の認識

この状況に関係していると思われるのが、「政治的無力感」である。同調査において、「自分には政府のすることに対して、それを左右する力はないか」という質問に、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えたZ世代の割合は約7割に上っている(注7)。

興味深いのは、「Z世代は社会に関心がないわけではない」ということだ。内閣府による調査で、子ども・若者の社会貢献への意欲(「社会のために役立つことをしたい」)をみると、15歳~19歳では「そう思う」「どちらかといえば、そう思う」が合わせて9割近く、20歳~24歳や25歳~29歳でも「そう思う」「どちらかといえば、そう思う」が合わせて8割以上となっている(図表4)。

図表4 子ども・若者の社会貢献への意欲
図表4 子ども・若者の社会貢献への意欲

さらに、Z世代は社会貢献への意欲のみならず、社会課題への関心も高い。連合が2022年に公表したZ世代を対象とした調査によると、87%が「関心のある社会課題がある」と回答している。社会課題の内容は、社会人Z世代では「長時間労働(ワーク・ライフ・バランス)」や「医療・社会保障(年金問題含む)」など、学生Z世代では「ジェンダーにもとづく差別」や「自殺問題」などが挙げられているほか、Z世代全体を通じて「いじめ」に対する関心が高い(注8)。こうした社会課題に関心をもった理由として、41.2%が「身近にこの問題に直面したことがあるから」と回答しており、学校を含む日々の生活のなかで様々な課題を「自分のこと」として捉える視点が大切であることを示唆している。

ただし、関心のある社会課題の解決に関わったことがあるZ世代は36.8%に止まっている(注9)。その背景には、前述のように、Z世代には政治への強い不信感や無力感があり、社会課題への関心をもったとしても、それが「国民一人一人が政治を動かしている」という認識に繋がらないからではないだろうか。

3.「政治を動かすのは国民一人一人」という主権者教育の充実を

2015年6月、国会で「公職選挙法等の一部を改正する法律」が成立した。これにより、いわゆる「18歳選挙権」が定められた。この選挙権年齢の引き下げに伴い、本格的に実施されることになったのが「主権者教育」だ。主権者教育とは、「国や社会の問題を自分のこととして捉え、自ら考え、自ら判断し、行動していく主権者を育成していくこと」である(注10)。

主権者教育の代表例として、各党のマニフェスト(政権公約)を比較検討しながら投票について学ぶ「模擬投票」や、国会や地方議会で議論されている政策について考える「模擬議会」などが挙げられる。これらは、2015年9月に総務省と文部科学省が発行した主権者教育の副教材にも掲載された。2022年度からは高等学校などに新科目「公共」が導入され、その中に主権者教育が位置付けられた。2023年5月に公表された文部科学省の「主権者教育に関する実施状況調査」によると、国公私立高等学校等のうち94.9%で主権者教育が実施されている(注11)。各地で様々な主権者教育が取り組まれているが、この分野における先進自治体である神奈川県では、全国に先駆けて2017年度より小・中学校においても主権者教育(政治的教養を育む教育)を実施している。その実践協力校を担った神奈川県内の学校では、授業の一環で取り組んだ政治家に対するインタビューなどを通じて、「政治や政治家へのイメージが変わった気がする」と答える生徒もいた(注12)。

拙稿「子ども・若者のウェルビーイングを向上させる「シティズンシップ教育」とは」でも述べたように、主権者意識を醸成するためのポイントは、「政治について小さい頃から段階的に考える機会をもつことを通じて、自らの意見が社会を動かすことを実感する」という点だ。海外では「ステップ・バイ・ステップ・アプローチ」とも呼ばれており、こうした取組みを長年実施することで主権者リテラシーを身に付け、結果的に若い世代の投票率が高い水準になった国もある。

もちろん、Z世代が抱く政治への不信感や無力感は、度重なる政治家の不祥事や政治資金などに関する問題も大きい。今回の衆院選の争点の1つに、まさにこの「政治不信」も挙げられるだろう。しかし、「政治に無関心であっても無関係ではいられない」という言葉があるように、様々な政策決定が日常生活に影響を及ぼすことは論を俟たない。社会課題に高い関心をもつZ世代だからこそ、その関心を政治参加に結びつけることができれば、政策を通じて社会課題を解決する力になる可能性がある。そのためにも、「政治を動かすのは国民一人一人」という主権者リテラシーの醸成に取り組む教育を一層推進していくことで、Z世代が政治への不信感や無力感を乗り越えられることが求められている。


【注釈】

  1. 厚生労働省(令和5年度)「新しい時代の働き方に関する研究会」における「新しい時代の働き方に関する研究会 報告書 参考資料」参照。

  2. 公益財団法人明るい選挙推進協会(令和4年3月)「第49回衆議院議員総選挙 全国意識調査-調査結果の概要-」

  3. 同上

  4. NIRA総合研究開発機構「政治不信は民主主義をどう変えるのか―社会に潜むネガティブな感情をつかむ」における「日本人が政府を信頼しない背景-NIRA基本調査の結果から」(重田園江 NIRA総合研究開発機構上席研究員/明治大学教授)より。

  5. 電通総研・同志社大学(2021年3月)「第7回 世界価値観調査レポート」

  6. 公益財団法人明るい選挙推進協会(令和4年2月)「若い有権者の政治・選挙に関する意識調査(第4回)

  7. 同上

  8. 連合(2022年3月)「Z世代が考える社会を良くするための社会運動調査2022」

  9. 同上

  10. 総務省 常時啓発事業のあり方等研究会(平成23年度)より最終報告書(概要)参照。

  11. 文部科学省「令和4年度主権者教育(政治的教養の教育)実施状況調査について(概要) 」

  12. 神奈川県教育委員会「小・中学校における政治的教養を育む教育」について(平成29年度~令和5年度実践協力校 指導事例集)」より、事例㉔ 逗子市立沼間中学校(3年・社会[公民的分野]「現代の民主政治と社会~政治家にインタビューをしてみよう~」参照。

【参考文献】

  • 小玉重夫『シティズンシップの教育思想』白澤社 2003年

  • バーナード・クリック著、関口正司監訳『シティズンシップ教育論』法政大学出版局 2011年

  • 小串聡彦、小林庸平、西野偉彦、特定非営利活動法人Rights「ドイツの子ども・若者参画のいま」2015年

  • 文部科学省、総務省「私たちが拓く日本の未来-有権者として求められる力を身に付けるために」(教師用指導資料)2015年

  • 唐木清志、岡田泰孝、杉浦真理、川中大輔 監修 J-CEF編『シティズンシップ教育で創る学校の未来』東洋館出版社 2015年

  • 荒井文昭、大津尚志、古田雄一、宮下与兵衛、柳澤良明『世界に学ぶ 主権者教育の最前線』学事出版 2023年

西野 偉彦


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

西野 偉彦

にしの たけひこ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: 教育(子ども・若者の学校教育から社会人の学び直しまで)、Z世代やα世代の生活行動・価値観・社会参画

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